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青森地方裁判所 昭和34年(行モ)1号 決定

申立人 中村亀吉

被申立人 黒石市長

主文

本件申立を却下する。

申立費用は申立人の負担とする。

理由

申立人代理人は「被申立人が昭和三十四年二月七日申立人に対してなした申立人の黒石市消防団長の職を免ずる旨の処分の効力を申立人の被申立人に対する青森地方裁判所昭和三十四年(行)第三号事件の判決確定に至るまで停止する。申立費用は被申立人の負担とする」との裁判を求め、その理由として、

一、申立人は昭和二十二年七月一日より黒石市消防団長の職にあるものであるが、被申立人は昭和三十四年二月七日申立人の右職を消防組織法第十五条の三第二項によつて免ずる旨の辞令を申立人に送達した。しかし右免職処分は左記のような理由で無効であるから申立人は右辞令を受領すべき筋合ではないので同月九日書留郵便を以てこれを被申立人に宛返送した。

二、黒石市消防団長の職は消防組織法第十五条の三第二項に基き黒石市長が任命するのであるがその罷免は黒石市消防団条例第六条所定の懲戒処分としてのみなし得るものである。そしてその懲戒事由は同例第五条所定の(イ)消防に関する法令、条例又は規則に違反したとき(ロ)職務上の義務に違反し又は職務を怠つたとき(ハ)団員たるにふさわしくない非行があつたときに限定されているところ申立人には右の何れにも該当する所為がないから前記免職処分は無効である。そこで申立人は青森地方裁判所に対して右免職処分無効確認の訴(昭和三十四年(行)第三号)を提起した。

三、黒石市消防団は消防法第一条所定の火災を予防、警戒及び鎮圧し、市民の生命身体及び財産を火災から保護すると共に火災又は地震等の災害による被害を経減し、市内の安寧秩序を保持し、以て社会公共の福祉増進に資する重大な使命を帯びるもので、団長以下千八十七名の団員を擁しているが、申立人は団長として副団長以下の団員を統率して右任務の遂行に当るべき重要な地位にあるので団員をして一糸乱れない統制の下に活動せしめるためには一日として団長の地位を不明確な立場に置けないのであつて、然らざれば一朝ことあつたときに十分の活動ができず、消防活動が混乱する虞が十分である。そこでかかる損害を防止するため前記違法な免職処分の執行を停止する緊急の必要性がある。

以上のとおり陳述し、疏明資料として、甲第一ないし第五号証を提出した。

按ずるに、申立人提出の疏明資料により申立人がその主張の日に被申立人から黒石市消防団長の職を免ぜられたことが認められ、本件記録に顕われた限りにおいては右免職処分は一応違法の疑がなくはない。

しかし行政処分の執行停止は適法な訴が係属し、且つ請求が一応理由ありとみえることの外に、その処分の執行により申立人自身に償うことのできない損害を生じ、これを避けるため緊急の必要ある場合でなければこれを許されないものと解すべきところ、申立人の主張は本件処分の執行により黒石市消防団員に対する指揮及び統制にこと欠き、その消防活動に混乱を来す虞があるというに帰するのであつてかかる申立人以外の者の蒙る損害は右に謂う損害に該当しないものと解されるばかりでなくかような損害の生ずることについて格別の疏明もない。

尤も右処分の執行により、申立人が黒石市消防団長の職にあること自体によつて有した職務上の権能、社会的地位、及び報酬その他の得べかりし利益を失うに至ることはたやすく察し得るところであるがこれ等は未だ申立人にとつて償うことのできない損害というに足りず、ましてこれを避けるために右処分の執行を停止すべき必要あるものとも考えられない。

従つて本件申立は結局その理由がないものと認め、主文のとおり決定する。

(裁判官 飯沢源助 福田健次 中園勝人)

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